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【秋にも舞うシジミチョウ クロツバメシジミ:長野県北アルプス山麓】2015.9.9


気象庁が台風18号に対して注意報を発表し、注意の区域に含まれている長野県北アルプス山麓ですが、希少チョウでもあるクロツバメシジミが秋の山麓で舞っています。

クロツバメシジミに限ったことではないのですが、チョウや昆虫たちにとって、特に秋は台風との格闘もあり、また産地を荒らされるなどの厳しい環境の中で、種の存続をかけて生き抜いていくことは非常に大変なことですね。

ヒメジョオンの花で吸蜜するクロツバメシジミ:長野県北アルプス山麓 2015.9.9

吸蜜植物になっているヒメジョオンの花と比較してもお分かりでしょうが、クロツバメシジミはシジミチョウの中でも小さい方です。多くの皆さんが普通に目にするチョウではないので、探さないと出会うということは、めったにないと思います。

愛好家は愛情を持って「クロツ」と呼び、地域による斑紋の違いを観察しながら全国調査をしたり、地元では限られた産地を巡回しながら保全活動に精を出す方々もいらっしゃいます。

北アルプス山麓のクロツバメシジミは、5月から10月ころにかけて見ることができますが、産地を探し求めるだけでも大変なことです。地元の愛好家の皆さんにクロツバメシジミのことをお聞きしたほか、全国調査をしておられる方に何度も同伴させていただき、斑紋の違いやその特異な生態などを観察させていただきました。

地域による斑紋の違いには詳しくありませんが、ある愛好家に方の山梨県北杜市の調査に同行したことがあります。その時に出会ったクロツバメシジミですが、上の個体と比べると、斑紋の大きさなどに違いがあるのがわかると思います。
枯れたツメレンゲの先で翅を休めるクロツバメシジミ:山梨県北杜市 2009.5.11

上の写真の長野県北アルプス山麓のクロツバメシジミの方が斑紋の一つ一つが、山梨県北杜市の斑紋よりも大きいことは、素人目でもはっきりと認めることができると思います。北杜市の個体の斑紋の色が薄いのは、羽化してからの日数が経過しているために擦れたものだと思われますので、斑紋の色そのものは比較しないでくださいね。

また、表の黒い翅の中にわずかに見える青い斑紋はクロツならではの斑紋です。ヤマトシジミのメスも翅の表が黒っぽいですけれど、青い斑紋を持っていません。黒の中の波長の長い青い斑紋は、夕暮れに見るツユクサの花や、家の日陰に植えられた青いアジサイの花のように目立ちます。

また、お天気の良い時ほど翅の表と裏の白黒のコントラストがはっきりし、表の黒っぽさと裏の白っぽさの対比が、飛翔時に引き出されます。産地に行ってキラキラ、キラキラ輝きながら舞うチョウを見れば、「あっ、クロツだ!」とすぐに分かります。数が少ないだけにその発見は「また今年の秋にも舞ってる・・・」と、愛好家たちにとっては大きな喜びの理由となるのです。

小指の爪ほどの大きさの翅を広げて舞うチョウを、歓声をあげて追いかける姿は、まったく子供みたいですが、実際私もそのような童心に戻ることができるのは、こういうチョウたちに囲まれて生活しているからなんだと、日々感謝しています。


また、「茅葺き屋根にもいることがあるよ」と聞いてからは、その生態に、非常に興味深さを感じました。山麓で茅葺き屋根を見るたびに、屋根を見上げてしまうのですが、残念ながらまだ出会っていません。


ところで2008年からカメラでクロツを追いかけていますが、非常に悲しいことにも出会っています。幼虫の食草のツメレンゲが、北アルプス山麓のある産地から、ある日一斉に無くなってしまったことがありました。

通常では考えられないかも知れませんが、そこは車道の脇にある草むらでした。もうお亡くなりになったFさんも非常に大事にされておられた産地のひとつでした。「こういうところにいるんですよ」と、産地の写真を見せていただいた時には、「私が定点観測している産地のひとつです」と、お互いに驚いた思い出があります。

クロツバメシジミはそのツメレンゲに卵を産み、卵からかえった幼虫は肉厚の葉っぱの中に入り、成長します。
一方ツメレンゲも、3年かけてやっと種ができるまでに成長するのです。クロツバメシジミの幼虫がいるかも知れない目に付きやすい2年目、3年目のものの他、1年ものの直径1センチ程度の新芽さえみんな無くなっているのです。ショックったらありません。

その後間もなく、園芸品も扱っていたあるお店で、ツメレンゲの新芽ばかりを鉢に寄せ植えし「田舎の雑草は都会では人気」と、自慢げに見せていただいた時には、思わず怒鳴ってしまいました。

ツメレンゲを食べて命をつないでいたその地のクロツバメシジミですが、食草が無くなってしまうという厳しい環境の中で生存がどうなったのか分かりませんが、わずかに残った食草があれば、ツメレンゲもクロツバメシジミもなんとか増え広がってほしいと思うばかりです。


そんなわけですが、クロツバメシジミ自体の繁殖のために欠かせない交尾の場面にも何回か立ち会うことができました。春に羽化した個体たちです。ちょっとお邪魔させていただき、撮影させてもらいました。
クロツバメシジミ交尾:長野県北アルプス山麓2009.5.18

左の個体から表の翅の色が分かりますね。下の方に青い斑紋がかすかに見えます。こんなに小さな斑紋ですが、この斑紋でクロツバメシジミを見分けることができます。

ここから下の4枚はちょっと面白いです。秋に発生した個体たちです。
さて、クロツバメシジミのペアはどこに止まっているのでしょうか。宙に浮かんでいるよう感じませんか?
撮影している私にも分かりませんでした。探してみてください。
クロツバメシジミ交尾1:長野県北アルプス山麓 2009.9.18

クロツバメシジミ交尾2:長野県北アルプス山麓 2009.9.18

クロツバメシジミ交尾3:長野県北アルプス山麓 2009.9.18

クロツバメシジミ交尾4:長野県北アルプス山麓 2009.9.18


クロツバメシジミは地域によって3つの亜種に分かれており、環境省2012年のレッドリストでは、準絶滅危惧(NT)に分類されています。
長野県版レッドリスト2014では、留意種(N) となっています。

一方、食草のツメレンゲは、環境省、長野県とも準絶滅危惧(NT)となっています。図鑑ではタイトゴメ、イワレンゲなど、他の食草のことも書かれていますが、山麓の限られた産地では、ツメレンゲで命をつないでいます。

台風のような自然災害にも、人為的に荒らされる産地の過酷な環境にも負けずに、クロツバメシジミも食草のツメレンゲも、ともに山麓に生き残り、次の世代へと命のリレーをしてほしいものですね。応援してあげてくださいね。



クロツバメシジミ Tongeia fischeri
シジミチョウ科

環境省レッドリストから 準絶滅危惧(NT)
・クロツバメシジミ九州沿岸・朝鮮半島亜種  Tongeia fischeri caudalis
クロツバメシジミ東日本亜種        Tongeia fischeri caudalis
クロツバメシジミ西日本亜種        Tongeia fischeri shojii
長野県版レッドリスト2015から 留意種(N) 

《参考までに》
食草のツメレンゲ Orostachys japonica
環境省レッドリスト2012から 準絶滅危惧(NT)
長野県版レッドリスト2014から 準絶滅危惧(NT)