【キベリタテハの吸い戻し:長野県朝日村】2022.4.28

4月11日以降、長野県朝日村に出向くたびに越冬後のキベリタテハを立て続けに確認していました。今まで、標高900m付近のその場所でクジャクチョウなどの越冬蝶には何度も出会っていましたが、キベリタテハは初めてです。実際はもっと標高が高いところのチョウだと思うのですが、冬の間だけ移動して来たのでしょうか?シラカバもあるので、そこで生息している可能性も否定できませんが、どうなんでしょうね?そんなキベリタテハが不思議な行動をしているのです。 ご紹介しましょう。

キベリタテハは白馬村で出会ってからあちこちで何度も撮影を試みましたが、私の焦る気持ちを察ししてなのか、ある程度近づくといつも逃げられてばかりでした。

通常でしたら1メートル以内になど決して近づけませんし、静止していてもこちらの動きをキャッチしてほとんど逃げられてしまいます。望遠レンズを使わなければ撮影できないような状態だったのです。

でも今回はコンクリートの上に静止していたのを確認してから、カメラでゆっくりと近づいても逃げないんです。非常に不思議です。

手持ちカメラで30センチくらいまでギリギリ近づけました。翅がボケるほどにまでです。開翅を撮り、さらに90度回り込んだ撮影の後に、その理由がはっきりしたのです。

実は、吸い戻しの行動をしていたんです。

コンクリートが濡れているのが見えるでしょうか?

最初は割れたコンクリートの隙間から水分を吸っているのかも知れないと思っていました。でも回り込んだ時に、口吻の先のコンクリートが濡れていることを発見したんですね。コンクリートの隙間から地下の水分を吸っていたのではないんです。

セセリチョウ科やタテハチョウ科のチョウは「吸い戻し」行動が観察されることは、書物などで読んでいました。セセリチョウでは腹部から出す液体で、鳥のフンなどを溶かして口吻で吸うのだそうです。

今回、キベリタテハが腹部から液体を出すところは観察していませんので、どこから液体を出していたのかは分かりません。でもコンクリートが濡れていたということは、体のどこかから液体を出し、コンクリートに含まれる特定の成分を吸っていたということのようですね。ミネラルの補給なのかも知れません。


実は、チョウの「吸い戻し」について何枚もの画像付きで触れられている2冊の本があります。福田晴男さんと妹のかとうけいこさん著の「日本のチョウ大図鑑1 アゲハチョウ シロチョウ シジミチョウ」(2020年12月30日 国土社刊)「日本のチョウ大図鑑2 タテハチョウ セセリチョウ」2021年2月10日 国土社刊)です。

「日本のチョウ大図鑑1 」では、エルタテハの集団が吸い戻しをしている中国での画像が掲載されていました(110ページ)。それぞれのエルタテハが口吻をつけている場所が丸く濡れているのです。

吸い戻しについて福田さんは「チョウが体内に一度取り入れた栄養分を外に出して、外の場所に含まれている別の栄養分を再度取り入れること。たとえば、自分の水分を乾燥した動物の糞などにかけて、栄養を溶かして吸ったりするのです」と、書いています。

さらに、「日本のチョウ大図鑑2 」でも、何種類ものチョウの「吸い戻し」について画像付きで書いています。獣糞の汁を吸っているギンボシヒョウモン(33ページ)、キツネの糞に集まるミスジチョウ(42ページ)、人の指で吸い戻しをするフタスジチョウ(43ページ)、コンクリートで吸い戻しをする外来種のアカボシゴマダラ(52ページ)などです。

実は私も、アサギマダラでも不思議な行動を確認したことがあります。福田さんは「日本のチョウ大図鑑2」に掲載してくださいました(83ページ)。ヨツバヒヨドリの葉での吸い戻しなのかも知れません。


そんな訳で、今回見たキベリタテハもタテハチョウ科のチョウですから「吸い戻し」をしていたのでしょうね。コンクリートに一体どんな成分が含まれていたのか、オスの行動なのかな?メスも吸い戻しをするのかな?など、もう少し深く知りたくなりました。調べてみたいですね。