【サクラソウ:長野県北アルプス山麓】2020.5.30

「休眠性」があると言うサクラソウ。どのくらいの期間休眠するのでしょうか?

サクラソウは、私が子どもだった時にごく普通に見ていた花でしたが、いつの間にか家の水田近くから姿を消しました。そのような花はいくつかあり、記憶があるだけでもサクラソウ、クリンソウ、ワレモコウ、ミソハギがあります。小さい頃から普通に見ていた花でしたが、いつの間にか、姿を消した花たちです。

実は数年前、その中の一つサクラソウが、何十年か振りに復活したのです。

どうやったら復活したのか、興味ありますよね。でも私はその前に、植物が休眠から何十年かぶりに目を覚ますと言うことの方が、非常に不思議でした。まさに復活なんです。

聖書の中には「復活」についての記述が数件ありますが、どれも人間の復活です。死んだ人が神によって再び命を得ると言う復活です。

でも今回は人間ではありません。植物ですし、サクラソウ自体は神による創造の産物ですが、神が特別サクラソウだけに愛着を持っていて、それを蘇らせたと言う訳ではなさそうです。神の知恵によってサクラソウがそのように創造されたと言うのなら理解できます。種に休眠という仕組みを組み込んだからです。でも半世紀も眠り続けた種が何かのきっかけで再び目を覚ますのでしょうか?

そう言えば、古代米というのがありましたね。記憶が曖昧なのですが、古代の遺跡からの出土品の一種を、現代人が発芽させて流通させたものでしたっけ?北アルプス山麓ブランドになっている白馬村の「紫米」があります。紫米はお米自体が紫の色素を含んでおり、炊くとご飯が紫色になります。

一方、北アルプス山麓では厄介者になっている「赤米」もあります。赤米は普通の田んぼのモミに混ざって発芽したり、上流から流れて来たものが水田に入り込み、通常のお米と一緒に育ち、秋に刈り取られ、出荷する時にモミの色は同じでも玄米にした時の色が赤いために白米の品質を落とすのだとお聞きしています。

紫米にしろ赤米にしろ古代米の復活でしたら、米は休眠性を備えているということですよね。でも遺跡の中、特に土の中で、何百年も、もしかしたら何千年も眠っていたのでしょうか?土の中に入っていたものが腐らなかったというのが、実に不思議です。

で、復活して咲いた花が上と下の画像なのですが、一輪や二輪ではなく、群生なんです。種が何十年の眠りから覚め、条件がぴったりと整った地上に芽を出し、花を咲かせたのです。サクラソウの種も古代米のように土の中で腐らなかったのでしょうか?

では眠りから醒めた経緯をお話ししましょう。

実に馬鹿げたお話しなのですが、弟が「ここに水があるはずだ」と、重機を借りて来て元水田に穴を掘ったのです。近くには小川が流れていて、その川から水田に水を引いていました。私が幼い頃にサクラソウを見ていた時にはそこはずっと水田でした。その後水田をやめて一時は畑だったのかもしれませんが、実はその頃の記憶は非常に曖昧です。

そしていつの間にかその水田の一角は池になりました。魚が泳ぎ、アヒルもいました。優雅でしょ?

その池は長続きすることはなく、10年も継続しなかったと思います。その後は畑にも水田にも戻ることなく、耕作放棄地となりました。やがて荒廃地となったのです。

私がその土地をずっと見続けて来た訳ではなかったので、変遷を正確に知ることもないのですが、サクラソウを見ていた幼かった頃は水田でした。田植えと稲刈りを手伝ったのでその記憶があるんです。ただサクラソウの時期は春ですよね。田植えの頃にサクラソウの花があったのか、なかったのかの記憶は残念ながらありません。でも毎年見ていた花だったことと、葉っぱがやけに広く、柔らかかったので、その感触も一緒に覚えていたのです。

その水田には今はなくなりましたが、ミソハギもあったのです。ミソハギは小川から水田に水が入るそのすぐ脇にあり、近所の方から羨ましがられたことを覚えています。なぜってミソハギが咲く頃にはお盆で、仏壇にピンクの綺麗で新鮮な花を毎日お供えすることができたからなんです。その方の家にはそういう花がきっとなかったのでしょうね。

その夏の時期にサクラソウはどうなっていたのか、それもまた記憶はまったくありませんが、きっと夏の休眠に入っていたのでしょうね。なので当然花がある訳でもなく、私の記憶では、夏にはミソハギだったのです。

余談が多くなりましたが、重機で穴を掘ったという弟ですが、今から10年ほど前のことです。深さ5メートル以上はあったと思います。私はその近くの家に住んでいた訳ではなかったのですが、たまたま実家を尋ねたら、恐ろしいほどの深さの穴を掘っていたためにびっくりしてしまいました。

そう言えば、父も、そのまた父親も水を求めて穴を掘ったと聞いたことがあります。ボーリングすれば簡単なのに、なぜか手で掘ったみたいです。松本市はちょっと掘れば水が出ると聞いていますが、そこは5メートルや10メートル掘ったからといって、水が出てくるとはとても思えません。小川がありますし、今は水道もありますので、それ以上の水を特別必要とすることなどありません。

「先祖たちがそこに住んでいたということは、そこに水があったからだ」というのが弟の主張でした。「目の前に小川もあるんだから湧水を使っていた訳ではないのだろう」と言うのが私の主張でした。確かに大きな川から引き込んだ小川が目の前に流れているので、それで生活は十分足りていたはずです。ただもっともっと何百年も、あるいは何千年も前には湧水だった可能性もあります。

父も、祖父もなぜ水を求めて穴を掘ったのか、きっと先祖たちがそこに住み続けていたと言う確かな証拠を欲しかったのかも知れません。「そこに水があったのだから、その水をもう一度」と考えた男のロマンなのでしょうね。

その水がサクラソウやミソハギをずっとずっと育てていた。そう考えるのは筋が通ったことのようにも思えます。どちらも湿地を好む植物のようですから。

そして面白いことに、その近くにある家の別宅の裏からつい最近、縄文の土器を私が拾ったのです。庭を片付けていたら、落ち葉の下にあったのです。普通土器といえば土の中ですよね。きっと別宅とその裏に小屋を作った時に、地面を掘り起こし、その時に出て来たものを弟が裏に放っておいた物なのでしょう。それをたまたま偶然私が見つけてしまったのだろうと思っています。

夫に言わせれば「誰かが土器のように見せかけたものを埋めておいたものかも知れないから、縄文の土器なんて言えば笑われるよ」なのですが、鑑定に依頼することもせず、とりあえず標本箱に入れようと考えています。

探したり掘ったりすればまだまだ土器が出てくる可能性がありますが、今はそれどころではなく、時々行ってサクラソウとその周辺のお世話で精一杯です。

何と言ってもクズがはびこり、オオブタクサが繁茂しているのですから。今年はサクラソウの周辺のキショウブを抜き取り、クズのつるを切り、オオブタクサとカナムグラの新芽をサクラソウの中から抜き取りました。でも次から次へと成長するヨモギ、スギナなどの雑草があり、もう手を焼いています。

そんな中で花を咲かせ、また種をつけているサクラソウ。今年の花は散りましたが、放っておけば再び芽を出すことはないのかも知れない。そう思うと可哀想で、時々通いながら今年こそはと手入れをしています。

サクラソウ Primula sieboldii E.Morren (サクラソウ科・長野県希少野生動植物)

学名は、米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info( 2023年2月17日)引用