【たくさんの飼育・放蝶が、個体数を増やすの?ギフチョウ・ヒメギフチョウ:長野県北アルプス山麓】2010.4.28

日本固有種のギフチョウは「絶滅の危険が増大している種」として、環境省のレッドデータブックでは「絶滅危惧Ⅱ類」(危急種)に、亜種のヒメギフチョウは「現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては『絶滅危惧』に移行する可能性のある種」として「準絶滅危惧」(希少種)として分類されています。そんなギフチョウ、ヒメギフチョウに関連して、全国各地で幾つもの放蝶が報告されています。たくさん飼育したチョウを野外に放せば、結果的に個体数が増えて、絶滅危惧種ではなくなるのでしょうか。

「人為的に大量に放しても、結果的に増えることには繋がらなかった」という実験結果もあるようで、今年も北アルプス山麓で、同様の事例がありました。一つの事例を簡単に紹介します。


【ネズミにやられたヒメギフチョウの蛹:Sさんの事例】

生き残って羽化したSさんの飼育したヒメギフチョウ 庭のカタクリで吸蜜する2010年4月26日撮影

長野県北アルプス山麓に住むSさんは民宿を営んでいます。20年ほど前に、埼玉県に住む某大学の先生がスキーの合宿に訪れ、その折に、その先生が飼育しているチョウの食草のウスバサイシンが不足していると聞きました。その後Sさんは地元にある食草をその先生に送ってやり、お礼にヒメギフチョウの蛹10個体を送ってもらったことがきっかけで、自宅の庭でヒメギフチョウの飼育を始めました。

送って頂いた蛹の出所は不明ですが、それ以降Sさんは、失敗を繰り返しながら自宅の庭で飼育を続けています。

自宅はギフチョウやヒメギフチョウの舞う山裾から200〜300mほど離れています。その自宅の庭に軽半ブロックでちょっとした囲いを作り、その中に落ち葉を入れて、そこが蛹の飼育場所となっています。雨が当らないようにすることもあるようですが「できるだけ自然に近い状態」を心掛けているそうです。

多い時にはその場所から500から600個体のチョウが一斉に舞いたち、そのチョウが近所の庭を訪れると「◯◯(Sさんの経営する民宿の屋号)のチョウが来た」と、近所の人から喜ばれたそうです。

食草のウスバサイシンも、吸蜜植物のカタクリも庭にあり、自宅続きの畑では、ウスバサイシンもカタクリも育苗ポットで殖やしています。雪が降るとその雪を蛹のある落ち葉の上に被せ、毎日のように手入れをして守って来ました。

ところが今年はSさんにとってショックなことが起きました。ネズミが、ヒメギフチョウの飼育場所の蛹の多くを食べてしまったのです。見せて頂くと、飼育場所の落ち葉の下には、穴の空いた黒い蛹の殻がたくさんあります。

「今年はたくさん雪があったため、ネズミの餌もなくなったのだろう。ネズミに大分やられた。蛹は1000以上あったのに」と、悲しそうでした。

昨年はブロックの囲いに寒冷斜を張り、100個体ほどがチョウになり「一挙に舞った」そうです。チョウの卵が幼虫になれば「雨が降っても槍が降っても、毎日3回新鮮な餌を取って来る」と言うほど、熱心に飼育していました。今年は落ち葉の中から集めたきれいな蛹20個体ほどを別の飼育箱に移しました。そのうち13個体が26日に羽化しました。

「生き残れるのは、自然の中では10匹いれば2、3%程度だが、人が手を加えると50%くらいだと思う」とSさんは言います。でも今年のネズミは予想外だったようです。Sさんの1000個体以上の蛹の飼育方法は、かえってネズミを呼ぶ結果となり、多くのチョウにはつながりませんでした。