「いきなりコサインカーブとは!」と思われそうなのですが、サインカーブでもタンジェントカーブでもなく、意味があってのコサインカーブなのです。
実は、渡り蝶のアサギマダラについていろいろと疑問が湧き、調べていたんです。何を調べていたと思いますか?
移動距離です。
毎年、日本国内を北上と南下を繰り返しているということは、国内や台湾などの海外も含めてでアサギマダラの調査を開始して40年になりましたので、多くの皆さんが知るところとなりました。
国土地理院やGoogle Earthなどで、2地点の座標から簡単に移動距離や移動方向の方位を知ることができます。
それを移動情報として、情報を共有しているメーリングリストで報告しています。
移動距離と言っても地球の準拠楕円体を元にした計算ですので、調査場所を山に移した私は、標高が非常に気になっていました。
マーキングされたアサギマダラが、標高1,600mの山から海岸付近や標高100m足らずの場所に行って再捕獲されることがよくあるからです。
標高差1,600mもあるのに、準拠楕円体の距離だけで十分なんだろうかと、疑問に思っていました。
マーキングされてから再捕獲される場所にアサギマダラは直線的に移動する訳でもなく、林や山の中をあちこち舞いながら、旅立つのに都合の良い温度や気流を見つけて舞い立ち、恐らく一気にではなく、あちこち寄りながら、しかも空中では気流に動かされながら、ある場所に舞い降りるのだろうと思っています。
ですので、調査をする人間の側が一直線に計測してみても、決してその最短距離で移動する訳ではなく、それ以上の距離を舞っているはずです。その距離に標高というものが気になり出してから、どうしても問題を解決したくなっていました。
たまたまお世話になっていた測量士の先生から、比例計算で標高とジオイド高を考慮する方法を教わることができました。
早速、日本から台湾へ2,000km以上も移動したアサギマダラを例に、計算してみました。かなり距離がある約2,500kmの直線距離に対して、標高とジオイド高を考慮すると500mほどの距離を追加することが相応しいという数字がはじき出されました。2,500kmに対して500mというのは、報告で四捨五入すれば切り捨てられてもおかしくない程度の数字です。
到着地の台湾の標高はGoogle Earth で調べることができますが、残念ながら外国ですので、ジオイド高を調べることはできませんでした。しかし、再捕獲地が海沿いなら標高を大きく考慮する必要はない訳です。
台湾への移動は一般的ではなく、かなり少ない記録です。そこで、その半分程度の距離で調べてみました。1,200から1,300mと言えば、日本国内の移動です。これならジオイド高も調べることができます。
そこで、実際に私が関与した場所の事例をもとに、教わった比例計算で計算してみました。ほぼ納得したような数値が出てきました。
その後、測量士の先生から、比例計算ではない余弦定理の方法を教わることができました。高校時代にやったはずの三角関数に関係したやり方でした。少なくとも誰もが学んだサイン、コサイン、タンジェントを使う方法です。
頭の隅っこには定理が多少残っていましたが、もうそのほとんどを忘れていました。それが定理といえば「ふーん、そうなんだ」となりますが、「ではなぜ、コサインなの?」となれば、それが思い出せないんです。しかもコサインを使わなければならないことの意味が理解できなくなっていました。
そこで、記憶の引き出しから思い出すのはもうあきらめ、地球の大雑把な半径6,370mを使い、エクセルで移動距離を計算してみました。でも、どうしても国土地理院やGoogle Earth が弾き出す数字と合いません。数百メートルの誤差が生じます。
キロ単位ではないのいで、ほっとしていますが、国土地理院やGoogle Earth に近づく方法をさらに模索です。
壁に掛けてある自作の日本や台湾を入れた地図を見ながら、毎日毎日、計算方法を考え続けました。窓枠の四角を見ながら2点間を台形として考えたり、θ角をどこに持っていくのが相応しいのかなどを毎日考え続けました。
地球儀がないので、Google Earthに北極から2点間への線や、赤道の線も別の色で表示させ、地球儀のように使って固くなった頭に少しでも分かりやすいように工夫して何度も考えました。
丸い地球だから、直線的に舞ったら地球を飛び出してしまいます。でもアサギマダラはそんな舞い方をしません。決して地球を飛び出すような舞い方ではなく、地面を考慮した舞い方だと思っています。
教えていただいた計算式の中には、扁平率が出てきました。さらに楕円形ということもあります。当然そんなことまで考えられる頭脳はもう働きません。でも長い移動には考慮が必要なのはよく分かっていました。
さらに、教えていただいた計算式の中にはコサインが入っていました。なぜコサインなのか、私には訳が分からなくなっていました。
サインを使った方法と、タンジェントを使った方法も確かめないわけにはいかなくなりました。そこで、地球の赤道から北極までの北緯の1°毎の距離の一覧表をエクセルで作り、それをグラフ化してみました。とりあえずコサインの計算、さらにサインの計算から一覧表を作り、それをグラフ化してみました。
1度毎では思ったような綺麗なカーブができませんでしたので、0.1度、さらに0.01度の単位で部分的な一覧表を作ってグラフ化してみました。
最初、度数でグラフにしていたので、90°の中に、何度もマイナスが出てきて、おかしいなと思い、その原因を考えないわけにはいかなくなりました。また錆びた頭で考え続けました。
赤道から北極に至るカーブの中にマイナスなんてある訳がないと、その原因を探り続けました。
そんな日が2、3日続いたある日、「そっか、そういえばラジアンで考えるんだっけ・・・」と、教えていただいたことを思いましました。「単位はラジアンだよ」と言われていたんだっけ。
そこで度数をすべてラジアンに変換し、それでようやくコサインのグラフとサインの一覧表からまともなグラフを作ることができました。
それでグラフを見て納得したんです。サインのグラフでは、スタート時点の赤道から北緯の度数が増える毎に0から数値が増えているのですが、コサインのグラフからは1に指定した赤道から徐々に数字が減っていき、北極では0に近くなっています。私が求めていたのはこれだったのです。
それが、上のグラフです。左端の棒線の長さが右側に行くにつれて減っていきますね。それがコサインの計算だったのです。
そんな訳で、固くなった頭を若干ですが、柔らかくすることができました。
さて、計算にコサインを使う理由が分かりましたので、これで難しい余弦定理の計算に再び挑戦です。
実はまだ、1,200km隔ったった2点間の距離では、私が計算ではじき出した距離と、国土地理院やGoogle Earth が計算した数値とは数百メートルの差があるのです。地球の半径を6,370kmにするか、6,371kmにするか程度の問題ではなさそうです。
隔ったった距離が長くなればなるほど、どうしても差が生じます。計算がますます難しくなっていきそうですが、私の計算はまだまだ続きそうです・・・