長野県北アルプス山麓の「秋の味覚」と言えば、ブドウ、リンゴ、ナシと言った果物に加え、やっぱ何と言っても「きのこ」でしょう。
と言うことで、あちこちで旬の味を楽しむことができるきのこ12種類を、大町市平で飴をつくているキハダ飴本舗の古川トミコさん、安曇野市穂高の永井和夫さん、小谷村下里瀬のサンテインおたりなどで見せていただきました。
まずは何たって小谷村の「マイタケ」。
めちゃ香りが良く、食をそそる小谷村ナンバーワンのきのこです。大きなものは5キロを超え、抱えるのもやっとです。
そんなマイタケですが、天然物を山で初めて見た夫は「クマの糞だと思ったよ。最初怖くて近寄れなかった」などと、感想を漏らしていました。遠くから見るとただの黒っぽい塊にしか見えないそうで、知らない人にとっては近寄りがたいのかもしれません。
だって、こんな色なんですよ。
これは小谷村のサンテインおたりで見せてただいたものです。非常にいい香りでした。
産地に行っても、みんなが避けて通れば、知っている人は取り放題ですね。見逃さないでくださいね、こんな高級品を。
ちょっと淡い色のもありますよ。こちらも小谷村産ですが「小谷村の友人にいただいた」と、古川さんに見せていただきました。
次は、北アルプス山麓きのこのことをあまり知らない私なので、まず採らない「コウタケ」です。
初めて見たときは、これは食べられるのかと思いました。
見てください。ささくれがいっぱいで、ロートみたいな形。
カサの裏はこんな感じ。ポツポツした小さな突起がいっぱいです。茎は太くてずっしりしています。
キハダ飴本舗の古川さんのお宅にお邪魔していた時に、採ったきのこを持って永井和夫さんが訪れ、たくさんのきのこを見せていただきました。永井さんは、安曇野市穂高有明でうどんとそばのお店「蛙遊庵(あゆうあん)」を経営しているとのこと。
永井さんは、ショウゲンジ(コムソウ)、シメジ、ムラサキシメジなども採り、ビクに入れて古川さんに見せていました。その中に大きなコウタケがありました。
永井さんは「このまま鉄板で焼いたり、ちょっと裂いて酒を掛けてアルミホイルで包んで酒蒸しにする。出来上がりにカポスを絞って、醤油をかける」と、調理方法を教えてくださいました。
永井さん嬉しそうですね。
きのこも大きいでしょ。コウタケは高級なきのこなんだと、あとで古川さんに教えていただきました。
香茸と言うだけあって、香りがいいんですって。
古川さんは、このきのこを裂いて、干して、乾燥させて保存するそうです。乾燥途中のきのこを見せていただきましたが、どんどん黒くなっていくのが分かりました。
保存したきのこは水に入れれば元に戻りますから、いつでも料理ができるというわけです。
古川さんは「オリーブオイルで炒めて、トマトソースに入れるといいよ。パスタには最高。バター炒めも美味しい」と、教えてくださいました。香りが良いだけに、きのこパスタや油料理に向いているのでしょうね。
次は私の大好きな「センボンシメジ」。
センボンシメジは実家の裏山で採ったこともありましたが、もうマツタケの止め山で行くことができません。松川村に来て、馬羅尾高原で一回採りましたが、何たって山の中ですから、詳細な場所を忘れてしまい、2度と行けませんでした。
このセンボンシメジがごっそり出ていたら、私は飛び上がるほど嬉しいですね。だって、シメジって毒があるのが多いのに対して、これ、食べられるんですから。1本しか生えていないようなシメジは怖くて採れないんですよ。間違えて採ったら、食中毒ですからね。
でも、センボンシメジだったら、一本で生えているということは絶対にないので、素人の私でも、安心して採れる唯一のシメジと言う訳なんです。分かるでしょ、この気持ち。またシメジって味が良いんですもの。また採りたいなあ。
と言うことで、次は「ホンシメジ」の出番です。
亡くなった父親がよく話していました「一本シメジは毒だから採るな」と。で、このホンシメジをよく見ると右側のは2つ、くっついていますね。まとまって生えていれば、通常のホンシメジだそうです。
近くに1本のがあっても・・・それは私には分からないです。
ただ、ホンシメジは茎がしっかりしていて、根元がちょっと太いんですって。採って来たんなら、専門家に鑑定していただいてから召し上がってくださいね。
シメジついでにもう一つ、こんな色のシメジがあります。「ムラサキシメジ」です。
ムラサキの色をしていて、いかにも毒そうですよね。でも食べられるんですって。
私は知らないので、振り向きもしないような気がします。私の後についていけば、きっとそのまま採れちゃうかも。
もう一つシメジです。
「ハタケシメジ」。
夫が元仕事場の近くにあったものを採ってきたのです。
シメジの食中毒のことを心配した私が「そんなの本当に食べられるの?」と、言ったものだから、お昼のきのこうどんを作った夫は、いつもなら「お昼だよ」と、声をかけてくれるのに、ちっとも呼んでくれません。
えっ?逆だろう、私が作るだろうって?実は、最近はお昼だけは夫が作っています。男性も料理しないと独りになったら大変ですから、今のうちに覚えてもらってるんです。麺類が多いんですけどね。
そんなことで「おかしいな」と思って食卓に行くと、夫が一人でうどんを食べているんです。「5分して何もなかったら呼ぼうと思っていた」と、言うのです。要するにお毒味をしていたのです。
5分後に私が食べた訳ではなかったのですが、テーブルに盛ってあった美味しそうなきのこうどんですから、お腹の空いた私は、そのまま食べてしまいました。「食べられる」と自信たっぷりに採ってきて、あんなことを言われ、ショックを受けてお毒味していた夫に申し訳なく思ってしまいました。
そんなことを古川さんにお話ししたら、持っていた杖で地面を打ちながら、笑いこけていました。
という訳で、今度はいかにも毒々しく見えるのに、美味しいというきのこを紹介します。
「アカヤマドリタケ」です。
私だったら、このきのこ見ても、決して採りたいとは思いません。いかがでしょうか?
裏はスポンジ状で、こんなです。
分厚いスポンジは魅力ですが、傘の黄色と、ひび割れた様子が毒っぽいですよね。
ところが、これが美味しいんですって。
古川さんは「コクのあるスープになる」と、言うのです。トウガンと焼いたり、バター焼きにしてもいいそうです。ちょっと勇気がいりますが、試したい方は是非どうぞ。
多分こんなきのこに出会っても、きのこを知らない人だったら誰も振り向きもしないのではないかと言うのが「ナラタケ」です。
地元では「モトアシ」と呼んでいますが、茎が細くて、根元が黒っぽいために、松川村の近所の方にいただいた時、食べるのに非常に勇気がいったきのこです。
でもこれが、うどんに入れると、うどんが数倍美味しくなるんです。
古川さんも言っていましたよ。「うどんの出汁にばっちり。一番いい出汁が出るよ」って。
山に行けば簡単に見つけることができます。写真だと見えにくいのですが、茎に袴があります。カサの下を見れば確認できます。
次は、お坊さんの帽子に似ていて「コムソウ」とも呼ばれる「ショウゲンジ」です。
昔から「コムソウのあるところにはマツタケが生える」って言われています。
実際、私も実家の裏山でよくコムソウもマツタケも採りました。
上のは、古川さんの友人の永井和夫さんが採ったもので、下の写真は古川さんの採取です。
これも袴のあるきのこです。
見えますね。カサの下にあるひだです。私はこれがあれば、安心して採ることができます。ただ、カサが大きく開いたものは、山からの帰りの途中で、みんな壊れてしまいます。
なので、惜しいと思っても開いたのは諦めて山に置いてきます。カサが開かないか、ちょっと開いたくらいのきのこを採れば、無事にいい形で家まで持ってくることができるんです。これはあくまでも私流です。
味ですか。実は、古川さんがお知り合いにコムソウの天ぷらを出したところ「カキフライの味がする」と、大喜びされたとのこと。
うどんに入れる程度の調理方法しか知らない私は「カキフライ?」って、ちょっと首をひねってしまいました。
古川さんは「パン粉付けて、フライにするといいよ」と、教えてくださいました。今度は私も挑戦してみようかな。
ぜひカキフライに、じゃなくってコムソウフライに挑戦してみてください。きっと食欲をそそると思いますよ。
誰でも安心して採れるきのこに「アミタケ」がありますね。地元では「アミジコ」とも言います。
食べる時にはちょっとヌルヌルしていますが、味がいいんです。これも大きくなって開いたものは私は山に置いてきます。
カサが壊れないようなものと、新しいものだけ持ってくるんです。と言うのも、アミタケは虫さんが大好きなんです。ほら、穴が見えるでしょ。虫さんの作った穴です。
大きいのは、良さそうに見えますが、家に持ち帰るとカサが黒くなっていることがあります。雨などの水分をたっぷりとカサの中に蓄えているようで、途中で色や形を損なってしまうんです。
きのこを山から持ち帰る時って、結構歩くじゃないですか。その間に揺れたり上に乗せたきのこの重みで、下のきのこが潰れたりで、帰ってから「こんなはずじゃなかった」って、ことが多いんですよ。だから惜しいようでも、半分は捨ててくるくらいでちょうどいいんです。
もう一つヌルヌルのきのこの「チャナメツムタケ」があります。
こちらでは「リコボウ」とも言います。
小さいのが出ていると可愛くって、ついつい採りたくなっちゃいますよね。裏の黄色いスポンジも綺麗ですよね。
うどんに入れるととっても美味しいです。ちょっとヌルヌルしているので、好みもあるでしょうね。
すべてそうかどうかは分かりませんが、こちらではカサが茶色いチャナメツムタケは食べられると聞いています。カサが灰色の毒きのこもあるので注意しましょう。灰色のきのこは、下が網状でも毒きのこです。
シメジの仲間に、「サクラシメジ」があります。
私は食べたことがありませんが、小宮山勝司著「よくわかるきのこ大図鑑」(永岡書店)によると「苦みがあるのでゆでこぼしてから調理しましょう」とあります。古川さんには2回見せていただきました。きっと、美味しい食べ方を知っているのでしょうね。
ということで、北アルプス山麓産の12種類のきのこをご紹介いたしました。
まだまだ食べられるきのこがたくさんある、北アルプス山麓です。
こちらにお越しの際は、お宿や料理店で美味しいきのこ料理を心ゆくまでお楽しみください。
❇︎ 山のキノコは非常に美味しいですし、各地の直売所などでも販売されています。
図鑑に「食用」と書かれていても、また一般に「食べられる」と言われていても、稀に「キノコにあたる」ということもあるそうです。
個人の体質やその時の体調、あるいはキノコ自体に含まれる何かなのかもしれませんし、調理方法や食べた量にもよるのかもしれません。
「松茸でもあたった」と言うことがあったそうです。
「『食用』と言われているキノコは絶対安心」とは断言できませんので、申し添えておきます。
《参照記事》
【ちょっとドッキリ でも可愛いタマゴタケ:長野県北アルプス山麓松本市】2017.3.16
【毒きのこ・ツキヨタケ:長野県北アルプス山麓】2010.11.4