【アカボシゴマダラ大陸亜種と在来種のゴマダラチョウの観察:埼玉県富士見市で】2020.11.29

今回は、埼玉県富士見市で2020年7月1日から9月2日までの約2ヶ月の間に観察したアカボシゴマダラ大陸亜種と在来種のゴマダラチョウが、どのくらいの比率で確認できたのかをグラフでご紹介しましょう。

グラフは、アカボシゴマダラ大陸亜種と在来種のゴマダラチョウが、その場所で実際に生息していた数ではありません。私が足を運んだ定点観測に選んだエリアでの延べ観察数です。

カメラ持参で買い物の帰りなどに立ち寄り、当日撮影した画像から、1個体ずつ翅の斑紋を確認して個体数を割り出しました。単純に飛翔の目視もありましたが、それは個体数に反映していません。

この観察でアカボシゴマダラ大陸亜種が、在来種のゴマダラチョウにどの程度の影響を与えるかは一概に判断できないと思っています。

そのエリアには、両種の植樹となっているエノキが数本ありましたし、樹液を提供するコナラ、ミズナラもありました。実際にそこにあるエノキで発生している可能性は非常に強かったのですが、樹木は直径50cm以上ある大木で、樹高もあり、枝を隅から隅まで確認できるような状態ではありませんでした。可能な限り手が届く程度の枝を観察しましたが、その枝に卵も幼虫も確認できませんでした。ただ一つ、両種のどちらかは判断できませんが、抜け殻が手が届くエノキの葉裏にあり、採取できました。

さらにそこだけで発生しているとは決して断言できないというのは、翅があり、分布を広げている移動ができる蝶ですので、他所から移動して来ている可能性もあるからです。

観察できた日はグラフの一番下にある日にちの色を濃くしてあります。実質35日です。空欄は雨天と42℃もの高温で外出を断念したり、現地に出向いたが確認できなかった日もあったり、長野県に戻っていた期間もあります。

グラフを見ても分りますように、アカボシゴマダラとゴマダラチョウはほぼ同じ時期に観察できました。だたその日の観察数は、そのエリアで継続的に確認できた同一個体とは限りません。その日の観察個体を翌日、或いは翌々日などに観察していた可能性は大きいですが、同一個体もいれば、移動してきた個体が混ざっていた可能性もあります。

観察できた翅の鮮度や痛み具合により、前日観察できた個体とは思えないような個体も混ざっていました。

ゴマダラチョウは1回の現地訪問につき、未確認から1、2個体確認できましたが、アカボシゴマダラは、一回の現地訪問で、少ない時には未確認で、多い時には11個体確認しています。

総数から言えば、ゴマダラチョウ延26個体につき、アカボシゴマダラ延108個体ですので、ゴマダラチョウはアカボシゴマダラの24%、ほぼ4分の1となります。数字から見ると単純にアカボシゴマダラはゴマダラチョウの4倍以上いると見えると思うのですが、実際は不明です。アサギマダラのようにマーキングをして、滞在日数が分かればいいのですが、今回はマーキングには挑戦しませんでした。

さらに気づいた点では、7月上旬に確認できたのは、あまり大きい個体に感じませんでした。昨年東京で見た白化型はかなり大きく感じていたのですが、間近に見ていてもその大きさを感じることはなかったです。オスだったのかもしれません。

最初にメスを確認できたのは、7月20日です。カナブンやシラホシハナムグリなどとともにコナラの樹液を吸っていました。今まで見ていた個体よりも、明らかに「大きい」と、感じました。下の個体です。

右後翅が大きく欠けており、痛々しいです。 左後翅の5つの赤い斑紋は、上は小さな点が一つ、その下は大きな円を小さな円でくり抜いたような三日月型の斑紋が並んでいました。同一個体ですが、下の画像がそれです。

前日までは確認することができませんでしたが、この場所で発生したのかどうかは分りません。腹部の先端の形と、大きさが違うことで、♂との区別がつきました。ようやく♀に出会ったという感じでした。幸いにも、この日から♀を確認することが多くなりました。

この場所で発生しているのかもしれない新しい個体にもよく出会いました。下の個体がそれです。でも、どことなくスレがあったり、欠けがあったりしています。翅の周囲には縁毛がないですし、欠けを多く見ますので非常に弱そうにも見えます。

生きる環境も、カナブンやシラホシハナムグリ、シロテンハナムグリのような甲虫の他、オオスズメバチなども訪れる樹液周辺ですので、樹液の食卓を囲んでいるうちに擦れたり欠けたりしてしまうのでしょうか?

前翅、後翅ともにボロボロの個体にも会いました。上の個体と同日の8月9日です。野鳥のオナガもいますし、カマキリも見ています。何かの天敵にやられたのでしょうね。それでも懸命に生きようと樹液に来ていました。たくましいですね。さらに、そのエリアで死骸や翅の一部が落ちているのにも出会いました。グラフでは下向きのグレーで示しています。雨天や42℃もの猛暑と言った気象条件が重なって息絶えたのか、天敵にやられたのかは分りません。

そうした中で、2頭が一緒に樹液を吸っていることもありました。

ゴマダラチョウやキタテハやルリタテハなどとも樹液を分け合っているアカボシゴマダラには何度も出会いました。

ある時の樹液レストランの同席はシラホシハナムグリやシロテンハナムグリだったり、ある時はカナブンだったりします。

そうかと思えば、樹液を吸おうとオオスズメバチの群れに近づき、近くにいたオオスズメバチに追い払われながらも、何度も何度も挑戦しているゴマダラチョウにも出会いました。生きるはどちらも必死なんですね。

植樹のエノキは大木2本の他に、脇に直径10程度の若い樹木もありました。幼木を探しましたが見当たらず、大木は黄色や赤い小さな実をたくさん付けていました。

下から大木を見上げて幼虫が食べた葉を探しましたが、多少は確認できたものの、多くを確認することはできませんでした。青々と生い茂るエノキの大木は、ここで確認した個体たちが食べ尽くしてしまう以上の葉っぱで生い茂っており、とても被害を与えているようには見えませんでした。

むしろ、時々落ち葉掃きに来ている皆さんが、秋に落ちるエノキの葉っぱをみんな片付けてしまうことの方が気になり、「ここには在来種のゴマダラチョウもいますので、落ち葉はエノキの周りに残してあげてください」と、お願いしたくらいです。

毎日のように目の前で観察を続けていると、親しみも湧いてきます。カメラで近づいても逃げようともしないで夢中で樹液を吸っている蝶たちが愛おしくなりました。

在来種のゴマダラチョウと生態系被害防止外来種に指定されているアカボシゴマダラ大陸亜種が、共存できる方法があればいいのにと思いながら、9月3日に埼玉県を後にしました。

アカボシゴマダラ大陸亜種 Hestina assimilis

奄美亜種以外のアカボシゴマダラは、外来生物法(平成29年11月27日公布、平成30年1月15日施行)により、「生態系被害防止外来種リスト掲載種」の中の「特定外来生物」に指定されています。


  • 外来生物法について

https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/outline.html

外来生物法に触れるのはあくまでも生きたものに限られ、死骸は該当外です。


  • 要注意外来生物について

過去にあった「要注意外来生物」は平成27年3月に廃止され、生態系被害防止外来種という扱いになったそうです。当時の要注意外来生物には148種類含まれていたようですが、生態系被害防止外来種になってからはさらに増えて、429種類になったそうです。
  • 外来種のくくりについて

環境省の「日本の外来種対策 防除に関するQ&A」をご覧ください。

https://www.env.go.jp/nature/intro/3control/qa.html

まず「外来種」があり、その中に「侵略的外来種」 があり、さらにその中に「生態系被害防止外来種リスト掲載種」があり、さらにその中に「特定外来生物」があります。奄美亜種以外のアカボシゴマダラは、「特定外来生物」に含まれています。

上記の環境省のホームページによると生態系被害防止外来種のリストに掲載されていても、特定外来生物以外の種類は外来生物法の規制の対象にはなっていないとのことです。
  • 個人での扱いについて

「外来生物法に関するQ&A」をご覧ください。

https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/qa.html昆虫は魚ではないですが、同じことが当てはまります。「キャッチ・アンド・リリース」は問題がないようですし、「釣った特定外来生物をその場で締めた上で、持ち帰って食べることも問題ありません」とあります。