【デゴイチ(D51型蒸気機関車):青木弘貴】2011.2.22

【デゴイチ(D51型蒸気機関車):青木弘貴】2011.2.22

2011/02/22 11:07 に ついついペコ が投稿 [ 2018/09/29 9:40 に更新しました ]

「トイ・ストーリー」から始まったカンタのDVD好きは、数週間の内に「トイ・ストーリー」から「機関車トーマス」へと移り「トイ・ストーリー」には興味がなくなってしまったようだ。その都度DVDを買ってやっていたのでは、爺の僅かな小遣いが持たない。

最近はカンタをDVDのレンタルショプへ連れて行き、好きなDVDを選ばせるようにしている。カンタは今、もの凄い勢いで視界に映る全てのものを、小さな身体の中に精一杯取り込んでいるのだ。いじけた過去の感傷を引きずり続ける老いた大人の思いなど、幼い子どもには迷惑なことなのだろう。

ゴードン、パーシー、ヘンリー、スペンサー・・・形は・・、色は・・、これだよ。ハロルドはヘリコプターだよ、爺。

ヒロ(伝説の英雄)は、日本からソドー(トーマスたちが暮らす島)に来たんだよ。

「ヒロ?!弘は爺だよ。ヒロジー。」

「違うよぅ。ヒロはこの黒い機関車のことだよぅ。」

「えー、爺もヒロって云うんだけどなぁ・・・ヒロタカって・・・。」

「爺の名前は、ノブオだよぅ。」

カンタが言ったノブオとは、長野の爺の名だった・・・。

ショック。僅かばかりの時間を一緒に過ごしても、塩尻の爺は、カンタからは認知されない爺なのかも知れない。どんなに爺が愛情を込めてカンタと接しても、カンタにとって塩尻の爺と婆は、「外」の爺と婆なのだ。カンタの「内」の爺と婆は、長野の爺と婆なのだ。そんなことは長女を嫁がせた時から判っていたこと・・・。それでも爺は、カンタの言葉にショックを受けた。

もう暫くすれば、カンタ達は又長野へ帰ってしまう。

そうだ。カンタに本物のD51を爺が見せに連れて行ってやろう。・・・そのD51は爺の勤務先の前庭にあった。カンタはおぼつかない足取りで機関車を回り、「爺、ヒロは大っきいね~。」と感嘆の声をあげた。そうさ、ヒロは大っきいのだ。

カンタがD51を塩尻の爺と2人だけで見に来たことを、何時まで憶えていてくれるのかは分からない。それでも爺は、塩尻の爺は、カンタと2人だけでD51を見たこの日のことを、一生涯忘れない。

童心を忘れずに生きることの難しさを、爺は60年近く生きてきて、十分に肌で感じている。

カンタの生きる時代は、爺には創造も出来ないことだが、カンタが爺と見たこの日のD51のことを忘れなければ、カンタの生きる時代もきっと最良の時代になるのだろうと、爺は想うのだ・・・。

カンタ達が帰ってしまっても、カンタ達は何時も爺の懐の中で暮しているのだ。