【樹液に集まるオオムラサキと昆虫たち:長野県北アルプス山麓】2020.8.1

長野県北アルプス山麓に自生している樹木コナラには、樹液を吸いにオオムラサキ、ルリタテハ、カブトムシ、カナブンなどが集まっています。

今年は 長引く梅雨の大雨で、やっと今日の11時に梅雨明け宣言があった長野県の遅い夏なのですが、山裾ではオオムラサキが舞い始めました。チョウや昆虫たちが樹液に集まって、夏のパーティーを楽しんでいるようです。昆虫たちに3密なんて関係ないのは実に羨ましいですね。ちょっと様子を拝見しましょう。

中央で翅を閉じて黄色い口吻で樹液を吸っているのがオオムラサキです。中央にいますね。鮮やかな緑色の甲虫はカナブンです。カナブンが脚をかけているのがカブトムシです。大きな体のカブトムシに「こっちに来ないで」と言っているようですね。大物のカブトムシはカナブンに脚をかけられてもびくともしませんが、一緒にごちそうの樹液を分け合っているのでしょうね。

こう言う光景は夏の山裾や河原の樹木ではよく見かけます。当然樹液が出ている樹木に限られます。クヌギやコナラと言った広葉樹だけではなく、河原では外来種のニセアカシアなども樹液を出し、多くの昆虫たちがそのご馳走に集まっています。

同じ樹木が毎年樹液を出すとは言い切れないですが、たくさんの昆虫たちを集めて、たっぷりとおもてなしをした後に枯れてしまう木もあります。翌年その場所に期待して行ってみても、その木に昆虫たちがいません。樹液どころか、緑の青々とした葉っぱすらありません。非常に残念なのですが、樹液を出すって、木の寿命を縮めているのかも知れないと思いました。

おやおや、オオムラサキの向こう側に何か見えますね。翅の一部が青っぽいです。

翅に青いラインが入ったルリタテハです。樹液はルリタテハなど他のチョウも招きます。

ルリタテハも樹液が美味しくってたまらないんでしょうね。時々翅を広げて、人間で言う舌鼓を打っているように見えます。

タテハチョウ科で大きなオオムラサキは、エノキの木で繁殖しており「国蝶」に指定されています。オオムラサキが大好きな人はきっと、ダイナミックな飛翔やその大きさ、そして国蝶と言うだけではく、構造色もお気に入りなのだと思います。

見る角度によって翅の色が変わっているのが分かりますね。オオムラサキが青紫の色素そのものを持っていると言うのではなく、光の反射や屈折などで青紫などに見えるんです。正確には反射だけなのか屈折や回析があるのかは私には分かりませんが、調べてみたいですね。

構造色は色が褪せないので、いつまでもこの輝きを失うことがありません。羨ましい限りです。

画像では魅力的な青紫を見ていただきたいので翅を開いていますが、実際は翅を開いたり、閉じたりして、食卓でのパーティーを楽しんでいるかのようです。

ジャノメチョウも樹液にやって来ます。あまり目立たないチョウですが、エノキやコナラのある林に行けば大抵舞っています。

ご馳走の樹液を出しているのはコナラやクヌギなどですが、オオムラサキの食樹はエノキです。エノキはテングチョウ、ヒオドシチョウ、ゴマダラチョウなども利用している、非常に貴重な樹木です。

ゴマダラチョウは埼玉県でやっと撮影できました。木の上の6〜7メートルほどの高いところにいてなかなか降りて来てくれなかったんです。何度行っても木の上の方にいるだけでした。高いところがお気に入りなのかも知れません。

しっかり調べているわけではありませんが、オオムラサキ、テングチョウ、ヒオドシチョウは北アルプス山麓のあちこちで見ていますので、きっとエノキもあちこちにあるのでしょうね。ゴマダラチョウは私が普段行くところでは見ていませんが、一部の地域では確認されています。上の個体は北アルプス山麓ではなく、埼玉県での撮影です。

近くにあったエノキの葉っぱを見てみましたら、たくさんの食痕がついていました。多くの昆虫の幼虫たちに、美味しい餌を提供しているのでしょうね。幼虫はこんな葉っぱをムシャムシャ食べて大きくなります。

すでにご存知の方が多いと思うのですが、エノキの葉っぱの見分け方をついでにご紹介しておきますね。

下の葉っぱを見てください。葉っぱの先がギザギザしていますね。でも葉っぱの下の方にギザギザがありません。半分ギザギザで半分ツルリン。それがエノキの葉っぱです。

エノキは小さな実をたくさん付けるので、近くにたくさんの幼木があります。埼玉県のある場所では民家の庭にもエノキの幼木がありました。

エノキは大きな木になるので、民家の方がエノキを普通に庭に植えるとは思えないのですが、その地域にはオナガがいますので、オナガなどの野鳥が実をあちこちに運んでいるのかも知れないと思いました。

長野県ではエノキを利用しているアカボシゴマダラの話をそれほど頻繁には聞きませんが、実は、中国大陸から人為的に持ち込まれ、放蝶されたと言われている特定外来生物のアカボシゴマダラが長野県内でも近年確認されています。

2019年6月に天龍村で白化型が、同年9月に高森町で赤斑がある夏型が、それぞれ採集されました。

神奈川県、埼玉県などで発見され、今では中国大陸産のアカボシゴマダラは関東の多くの場所で生息域を拡大しているようですが、環境省によって生態系被害防止外来種とされています。

同じエノキを食べているオオムラサキやゴマダラチョウ、テングチョウなどとの競合が懸念されるためです。餌の争いということですね。

南信州でアカボシゴマダラがすでに採取されていますが、そこから北上すれば、外来種のアカボシゴマダラは北アルプス山麓にも来ないとは限りません。そこで、ついでなので、東京都の二つの公園で撮影したアカボシゴマダラをご紹介しておきます。

まずは春にはこんな個体が出ます。アカボシゴマダラの白化型です。東京都足立区の公園で2019年5月29日に舞っていたものです。公園近くには民家もあり、カメラでこのチョウを追いかけていて怪しまれたくらいですが、最初はなんのチョウなのか分からなく、調べてアカボシゴマダラの春のタイプの白化型だと分かったんです。

画像からお分かりのように、季節はツツジが咲く春です。2019年5月28日の撮影です。

もう一つご紹介しましょう。これも東京都足立区の公園ですが、上の画像とは別の公園です。撮影は翌日の2019年5月29日です。

白っぽく、赤い斑紋がありません。白化型を見たのはこの2回だけですが、印象としては「大きい」と感じ、滑空するのでカッコよく見えました。人を恐れることなく、私の近くまで寄ってきて、しっかり斑紋を確認させてくれました。

ただ、この数日後に私は長野県に帰ってしまったので、その後の足立区の二つの公園では確認していません。でも第2化の夏型がきっと今頃2つの公園内で舞っているのでしょう。

多分第二化と思われる夏型のアカボシゴマダラを、埼玉県で何度も確認しています。赤い斑紋には変化が多かったです。下の画像はその中の一枚です。

アカボシゴマダラについてはこのサイトをご参考にしてください。

国立環境研究所「侵入生物データベース」

https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60400.html

さらに、樹液に集まるチョウには、キタテハもいます。

キタテハは秋のアサギマダラのマーキングの時期に、花畑のフジバカマにたくさんやってきますが、カナムグラという草を食べて育ちます。田舎に行けばどこにでもいます。でも樹液の食卓にも集まるんですね。今回の画像には含めませんでしたが、アカタテハも樹液に集まります。

さらにヒメジャノメもいます。パッとした蝶ではないですが、人間より低く舞っているところは、可愛いなと思います。下の個体は埼玉県での撮影です。

過去の画像を調べてみましたら、2014年のデータからこんな素敵な画像が出てきました。たくさんのオオムラサキの他に、緑色のカナブンの上にいるルリタテハ、その左側にキマダラモドキ、上でオレンジの翅を広げているヒオドシチョウ。こんなにもたくさんのチョウが樹液に集まっていました。こんな現場に居合わせたら見応えあるでしょう。

さらに、チョウではないのですが、カナブンによく似たシロテンハナムグリ。もしかしたらシラホシハナムグリかも知れません。とにかくよく似ていてます。埼玉県での撮影ですが、この緑色はとっても綺麗でした。カナブンとは違い、金属光沢が魅力ですね。

ところで、カナブンのグリーンが鮮やかで綺麗でしょう。改めてカナブンにも魅力を感じている私です。この緑色のカナブンがアオカナブンかどうかは、調べてないので分からないですが、カナブンの色には種類が多いです。埼玉県で撮影した時には緑のカナブンはほんのわずかでしたが、北アルプス山麓には結構いましたよ。細長く見えるのでアオカナブンなのかも知れませんが、腹部を確認していません。今度挑戦しようかな。

暑い夏には樹木の下に行くと、本当に涼しくていいなと思いますし、こうしていろんなチョウや昆虫たちと出会えるのも魅力ですよね。樹液にはスズメバチ、オオスズメバチも来ますので、ぜひ注意しながら樹液に集まる昆虫たちを観察してみましょう。

オオムラサキ Sasakia charonda Hewitson タテハチョウ科

環境省 準絶滅危惧(NT)