【福岡県宗像市周辺のアサギマダラ:「宗像アサギマダラの会」の前田秀敏さんからお聞きする】2015.12.6

福岡県宗像市のアサギマダラ

福岡県宗像市の前田秀敏さんから、宗像市周辺で活動している「宗像アサギマダラの会」の様子をお聞きしました。

まずはちょっと珍しいアサギマダラのこの画像からご覧ください。

アサギマダラのヘアペンシル2015.1016撮影:福岡県宗像市前田秀敏さん提供

アサギマダラの体の下に、何か見えますか?

雄の体の下に出ているものがそれです。

拡大してみました。

アサギマダラのヘアペンシル拡大2015.1016撮影:福岡県宗像市前田秀敏さん提供

筆のようなものが確認できますね。実はこれは、アサギマダラのヘアペンシルです。門司白野江植物公園のフジバカマ園に飛来した30頭のアサギマダラの中にいた1頭です。

ヘアペンシルを出しているアサギマダラを宗像アサギマダラの会の仲間の庄野朋子さんが捕獲し、前田さんが撮影して送ってくださいました。添付画像は発会当初幼虫観察会の画像です。

私も以前、アサギマダラのマーキングをしていた時に仲間が見せてくださり、その時に初めてヘアペンシルのことを知りました。その後、ガの仲間のイカリモンガでもヘアペンシルを確認することができました。

オスがメスを引きつけるためにフェロモンという物質を体から出し、それをこの筆のようなペンシルを使って、自分の翅の下にある黒い部分、性標の付近に塗るのだそうです。一本の筆のように見えますが、上に曲がったようになっているのは、きっと一対のうちの、もう片方かも知れませんね。

このヘアペンシル、言ってみればオスのお化粧道具でしょうか。男性のオーデコロンのように、オスが魅力的な香りを体に付けるわけですからね。フェロモンの匂いかどうかは分かりませんが、実際、アサギマダラには独特の香りがあります。人間のメスからしたら「臭い〜」としか、言いようのない匂いですが、アサギマダラのメスには非常に魅力的な匂いなのかも知れませんね。

さて、宗像市城山登山口で幼虫の観察をして皆さんは今年2月、「宗像アサギマダラの会」を立ち上げました。会員は現在約30人に増えました。

5月には宗像市江口釣川河口右岸の丘陵地のスナビキソウに来ていた18頭のアサギマダラのうち、9頭に「ムナ」のマークをつけてマーキングを開始しました。

アサギマダラの幼虫観察会で、食草や幼虫を写真に収める宗像アサギマダラの会の皆さん:福岡県宗像市前田秀敏さん提供

5月25日には同所で「MIYA 5/15 GAN67」を再捕獲し、3頭が残っていたので夕日が沈むまで観察しました。再捕獲したアサギマダラは、5月15日に宮崎市本郷北方池田で標識されたアサギマダラだと判明しました。宮崎県から福岡県に春の北上として移動した、数少ない貴重な記録を残すこととなりました。 (下の地図では緑の矢印

その後会員たちは勢いに乗り、宗像市の玄海町、筑前大島御岳などでもマーキング活動を行いました。

標高1800メートルの長野県南佐久郡川上村秋山地区からのアサギマダラも、宗像市内で有馬純美子さんによって再捕獲されました。そのアサギマダラは8月19日午前11時18分に「KV 8/19 TMS 4375」の標識を記され、長野県を出発しました。西南西に58日間かけて移動し、快晴で風もない穏やかな10月16日の午前10時20分、舞い降りたところが宗像市大王寺に植えられたフジバカマだったのです。

そのアサギマダラは、フジバカマ園で吸蜜していた4頭のうちの1頭だったのです。779㎞の移動でしたが、翅の破損もなかったとのこと。宗像市でたっぷりと美味しい蜜を吸い、きっと今頃は、さらに南下の旅を続けているのでしょうね。 (下の地図では赤い矢印

さらに、北九州市門司区白野江植物公園のフジバカマ園では許可をもらって活動し、10月16日に「GESAN 9.28 TAF3700」を再捕獲。9月28日、山口県下関市豊田町上杢路子で標識された個体だと分かりました。 (下の地図では水色の矢印

宗像市周辺で皆さんが再捕獲されたアサギマダラの移動を、地図に落としてみました。それが上の地図です。

この再捕獲情報は、宗像アサギマダラの会員の皆さんのかかわった貴重な記録となりましたね。

実は、福岡県には宗像市、北九州市以外にもアサギマダラが飛来し、各地でマーキングや再捕獲がなされています。そして、遠くは西南諸島に向けて南下の旅を続け、今年は日本各地から旅だったアサギマダラは、遠くは鹿児島県や沖縄県の南の島々の他、海外では台湾で再捕獲されました。

前田さんによれば、フジバカマは市内のホタルの公園にもテスト移植したそうです。公園中にフジバカマが広がれば、今後たくさんのアサギマダラが吸蜜に訪れるのでしょうね。

現在会は、その公園の建屋を中心に活動しており、村おこしの一環でフジバカマを苗から育てています。市と協働でリーダーも養成し、環境づくり、地域づくり、人づくりを一緒にやっています。

子供たちは図書館の「しらべ学習」でいろいろ調べ、11月23日に宗像市で開かれた、環境フェスタ「あさぎまだらのしらべ学習」で、小学生の部が市長賞を受賞しました。その市長賞を受賞したお子さんたちのお母さんの一人、庄野朋子さんが、このヘアペンシルを出しているアサギマダラを見つけ、捕獲したのです。それにしてもよく気がついたと感心するばかりです。

「あ〜、変わったアサギマダラがいる〜」と、パタパタするアサギマダラが逃げないようにそうっと近づき、捕獲したのでしょうね。なんか、捕獲する時の嬉しそうな、でも逃げられないようにどきどきする様子が目に浮かびますね。

前田さんは「子供たちの調べる視点はすごい。それが表彰につながったのでしょう」と話しています。子供たちの調べたことは、しらべ学習の全国大会に出展されました。入賞したら各地の図書館で紹介されるかもしれません。楽しみですね。

九州とはいえ、今は初冬です。最近の宗像市の気温は11、12℃程度とのこと。今年は多い日で200頭ほどのアサギマダラが吸蜜に訪れましたが、今も留まっているアサギマダラがいて、ツバキで吸蜜しているそうです。アサギマダラは10月頃から食草に卵を産んでおり、冬の幼虫越冬も確認しているとのことですが、成虫は南下の旅に向かっているのでしょうか。

ところで、前田さんからはアサギマダラのオスとメスの写真も送っていただきました。

アサギマダラのオス(左)と、交尾痕のあるメス(右)2015.1016撮影:福岡県宗像市前田秀敏さん提供

オスが茶色の左、交尾痕のあるメスが右です。白いお腹が大きいですね。交尾痕は、一番下のちょっと茶色くなった横線です。わかりますか?

このアサギマダラも宗像市で産卵し、そこで幼虫たちが育つのでしょうか。宗像市の子供たちは、こうしたことも調べて学んでいるのでしょうね。

最後になりましたが、会発足当初、アサギマダラの幼虫を観察した宗像アサギマダラの会の会員の皆さんです。こんな自然の中で大人も子どもも一緒にチョウや幼虫に触れ合えるって素敵ですね。

会発足当初の宗像アサギマダラの会の会員の皆さん:福岡県宗像市前田秀敏さん提供

今年立ち上がったばかりの会ですが、前田さんは「ひょっとしたら、アサギマダラは長崎の五島列島へ流れる可能性もある。熊本や佐賀から長崎に行っているかも知れない」と、ルート解明に意欲を示しており「これからも、フジバカマを宗像全体に広げ、宗像に来ているアサギマダラをみんなで育てていきたい」と、張り切っています。今後が楽しみですね。


【福岡県宗像市のアサギマダラ】 に戻る